現代における技術の黒船:内田孝幸教授が語るドローンによる画像解析の未来
2024年7月13日、東京工芸大学の厚木キャンパスでは工学部のオープンキャンパスが行われました。 DroneGuideではオープンキャンパスの取材を行うと共に、同大学の教授である内田孝幸先生や研究室の学生さんにお話を伺いました。
目次
内田孝幸 教授へのインタビュー
—-ドローンが日本で知られるようになったのは2013年頃からと思います。
それまで電子工学、画像工学といった分野で活動されていた先生のドローンとの出会い、研究にドローンを持ち込むようになった経緯をお聞かせください
はい、そうですね。
私は元々はドローン研究に携わっていた人間ではありません。
今は知られるようになりましたが、有機ELという新しいディスプレイ関連の研究者でした。
特に透明有機ELという、ガラスのように透明な有機ELというのを開発していました。
それが、なぜ今私はドローンを用いた研究を行っているのか。
質問にあったように、ドローンはここ10年ほどで急速に進歩してきた新しい技術です。
今では制御技術が安定してきており、GPS(GNSS)やビジョンセンサーを入れておけば、風が吹いてもピタっと定位を保てるという技術に変わってきています。
以前と比較して格段に操縦性が高まり、意図した操作ができるようになっています。
さらに、マップ上にルートをプログラムすれば綺麗に飛んでくれるものにまで成長しています。
これらの点だけ見ても、大変扱いやすい存在となったといえます。
これが研究に関わるようになった理由のひとつです。
そして、もうひとつ。
電子工学、画像工学という中からなんですけれども、フォトグラメトリ※ つまり多視点からの画像構築ということで、自分の好きな場所に回り込んで、どこからでもカメラや映像を持ってこれるというのは、カメラ技術の中では非常に欲しかった技術のひとつになります。
カメラというのは、近年ものすごく技術が発達してきています。
例えば、赤外線カメラや紫外線を測れたり、解像度が非常に高かったり、衛星から撮れるリモートセンシング※ といった技術も発達してきています。
こうした可視領域で様々なところから撮れるというだけでなく、不可視光線も含めたマルチスペクトルといった新しい技術にも、当時行っていた前述の研究との関連もあり強く興味を抱いていました。
2024年現在だと、産業分野のドローンの活用という点ではDJIがひとつ抜きん出た存在として知られていますよね。
そんなDJIから、ある時マルチスペクトル画像システムを搭載したドローンが出ました。
このマルチスペクトル画像システム搭載のドローンとの出会い、マルチスペクトルという分野に足に踏み入れ研究を進めていこうと決心したのです。
見えないものを可視化するマルチスペクトルが気になっていたところで、ドローンでそれが記録できることを知った私は、これしかないと判断して大きく舵を切ったわけなんです。
※フォトグラメトリ:多視点・多角度から被写体を撮影し、撮影したデジタル画像を解析、統合することで3DCGモデルを作成する手法。
※リモートセンシング:対象を触れることなく、遠隔で形状などを調査測定する技術。人工衛星にセンサーなどを搭載する事で地球の状態状況の観測を行う「衛星リモートセンシング」が代表的。
—-先生は、『ドローンによる画像解析を、「現代における技術の黒船」』と語られていますが、それほどインパクトの大きな存在とどのような点から考えられたのですか?
ドローンというと、一般的に考えられている事は荷物を乗せて運搬するという輸送の補助ですよね。
離島まで薬を運ぶであったり、アクセスの悪いところまで食料をもっていこうといった事が一番ロジスティクスとして考えられています。
あとは、画像や映像が撮れることから点検作業での活躍も考えられていますよね。
点検箇所すべてに足場をかけて車を止めてといった作業をしていたら大変なお金と時間と手間がかかってしまいますが、ドローンならあたりをつける所までもっていくなんて事はできるようになってきています。
最後は足場を組んで作業をする事になったとしても、圧倒的にコストも減らすことができますよね。
画像解析という点でいうと、点検作業では目で見えない場所を赤外線や紫外線で見るといったことがドローンならできます。
例えば、家の水漏れだったら赤外線カメラをうまく使えば水の入ったところをチェックするなんてこともできます。
測量も、今後はドローンだけで済んでいくようになっていくかもしれません。
GNSS※ を用いて測量をする事で位置精度が高まります。
しかし、衛星つまり大気圏外からおこなうと、おおよそ1mほどの位置ズレが生じます。
そこで出番として考えられるのが、単独測位のGNSSではなく、相対測位となるRTK※ 技術のひとつであるRTK-GNSSです。
この技術では、地上に設けられている位置補正用の基準局も用いるので、数㎝の精度まで持っていく事ができます。
技術的には、歴史的な構造物などもデジタルアーカイブとして色やテクスチャも含めた図面が引ける所まで来ています。
デジタルツイン※ による文化財保護もできるという事で、最近盛んにその活動が広がっています。
他にも、赤外線カメラ搭載したドローンなら冬山で遭難者を探すだったり、近年問題になっている山中にいるクマを探すといったこともできるでしょうね。
人間の目に入らない帯域のものを可視化できるように、撮影するだけで今まで見えなかったものが見えるようになってくるかもしれないという事です。
『ドローンによる画像解析を、「現代における技術の黒船」』と私が評しているのは、画像解析において端から端まですべて使えるんじゃないかと考えたからなんです。
※GNSS:「Global Navigation Satellite System」(全地球航法衛星システム)の略称。人工衛星を利用した地上での現在位置を計測するためのシステム。
※RTK:「Real Time Kinematic」(相対測位)の略称。固定局と移動局の2つの受信機と衛星から信号を受信する技術を組み合わせることで、受信機の間でのズレを補正し精度の高い位置情報を取得する。
※デジタルツイン:現実空間にある情報をデジタルデータとして取得し、サイバー空間上に再現する技術。
—-東京工芸大学では、学生のドローンの国家ライセンス取得をサポートする取り組みをされていると聞きます。
講義としてドローンについて座学や実習がある、試験についての共有がある、資格取得することが単位取得に有利になるといった取り組みがされているという認識でよろしいでしょうか?
東京工芸大学では、英検やTOEICなどの取得をすると外部取得単位として単位認定をかけています。
これに、ドローンの国家資格も含めたことで今年度(2024年4月)から単位の振り替えができるようになりました。
「一等無人航空機操縦士」を取得時は2単位、「二等無人航空機操縦士」を取得の際は1単位の単位認定となります。
また、サポートとして後援会から「無人航空機操縦士」取得費用の一部補助もあります。
そして、ドローンにまつわる応用科目として、2年生を対象とした「フォトグラメトリとLiDARの基礎」と3年生を対象とした「無人航空機と画像センシング」という講義が本年度から新たに開講されています。
このように、本学では単に操縦の国家資格の取得だけでなく、多視点の画像のデジタル3D撮影、構築技術についても学ぶ環境を整えています。
2Dの写真のイメージに例えるなら、撮影技術だけでなく、現像からレタッチまでの技術を習得するイメージ。
その現代版として、3Dになったとイメージしていただければ分かりやすいかもしれません。
—-ドローンについて、どのような興味を抱いて学生には門を叩いて欲しいという思いをお持ちでしょうか?
ドローンに関しては、人によってまだずいぶん温度差のある技術だと思います。
オモチャだと思っている人もいれば、空撮できるものだと思っている人、中には戦争にも利用できる恐ろしい存在だと感じている人もいるでしょう。
授業を含めて伝えたいのは、「フォトグラメトリ」と私が呼称しているモデリングを含めた多視点画像からの3D構築という学問です。
将来的には、3D構築したデータを3Dプリントに戻したいと考えています。
こういった学問に興味を持っている生徒や学生がいたら、ぜひ門をたたいて欲しいです。
研究室の学生たちにもお話を伺いました
今回は、内田先生からお話を聞くのに併せて、ドローン飛行の実演を担当された2人の学生からもお話を聞くことができました。
—-世代的にも幼少時代からドローンという存在は出てきていたので知っていた方もいると思います。子供時代にはドローンをどんな存在だと考えていましたか?
「ドローンや無人航空機を知ったのは小学校時代だったと思います。最初はラジコンの仲間で空飛ぶオモチャのように思っていたんじゃないでしょうか。」
「私も同じような感じでした。空飛ぶオモチャだったり、空から映像とか撮影のできる機械なのかなくらいに思っていました。」
—-ドローンについて学ぼう、ドローンを活用する研究室に入ろうと考えられた経緯をお聞かせください
「自分は3年生で、現時点ではまだ研究室の配属が決まっていないため、内田先生の研究室に入ってはいません。しかし、内田先生とはCA※ 班で一緒だった縁もあり、ドローンに興味を持ちました。先生の話からドローンの資格を取ることだけでなく、その技術やドローンの可能性にも魅力を感じています。」
「内田先生からは、CA班で入学時からドローンの話を多く聞く機会がありました。その中で研究室が面白いという点や『これから進歩していく最先端の機械だ』という言葉に魅力を感じて、研究室に興味を持ちました。」
※CA:カリキュラムアドバイザーの略。東京工芸大学では1年生から3年生までの研究室に配属される前までの期間、各教員が担当のような存在としてつき、生徒は成績や履修に関して相談・指導を行ってもらう事ができる制度。
—-将来はドローンにまつわる企業への就職など考えられているでしょうか?
もし考えられているなら、産業やエンタメなど多岐に渡る業界がありますが、どのような業界を志望し、活躍されたいと願っているのでしょうか?
「自分は今「無人航空機操縦士」の資格を活かせる職業を調べている段階です。まだ新しい技術という事もあってかメイン事業として取り扱っている企業というのはあまり見つけられていない状況です。なので、おもしろいと思えたり興味を抱ける企業を見つけられたら「一等無人航空機操縦士」の取得を目指し、活用できる職業につくという選択肢もあるのかなと思っています。一方で、自分は電気の専攻なので電気も関わっていきたいという思いもあるので、今はちょうどどちらに進んでいくか悩んでいる時期となります。」
「私は設備の施工管理にまつわる企業への就職が決まっています。就職活動を進める中で、建築業界でも現在はドローンパイロットの内包化を進めているという話を聞きました。外部に委託するのではなく社員が資格を取得する事で経費削減にもつながるということなので、資格をすでに所有していることやパイロットとしてのテクニックを活かして会社にも貢献していきたいと考えています。」
オープンキャンパスの様子
別記事では、同日に行われた東京工芸大学のオープンキャンパスの様子もご紹介しています。
そちらの記事も併せてご覧ください。